All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

桜坂洋の作品は初めて読みました。よくわかる現代魔法とかは萌え系だしあまり購買意欲が起きなかったのですがこれはハードSFらしいと聞いていたので実際に店頭で手にとってみました。パラパラめくった印象でスラムオンラインよりきっちり書き込まれていたことと、ジャッケット兵のデザインが紅い眼鏡犬狼伝説の特機隊のものと似ていたのに惹かれ、お金を払いました。あらすじは、近未来の極東の島国における(日本かな)、正体不明の侵略者ギタイとの戦闘の中で、ある一日をひたすら繰り返す事になったキリヤ・ケイジと、戦場の牝犬と呼ばれながら各地を転戦し続けていた、真紅のジャケットを装着した戦闘少女、リタ・ヴタラスキとの出会いと別れを描く、というもの。短編。「セカイ系」の変奏曲といった趣(ここから若干ネタバレ)。
最終兵器彼女にしても、イリヤにしても、ヒロインは何だかいつも酷い目にあっていて、それが送り手と受け手の了解事項としてあり(だから彼女がそうなる事について説明しなくてもそれが作品上の瑕疵と見なされることはあまり無く)、またヒロインが戦闘に赴く理由も語られない。強いて言えば主人公が好きだからと(これほど男にとってありがたい話も無いですな)。それに対して、この作品ではヒロインが酷い目にあうのは符合しているけども、リタには闘う理由が主人公とは無関係に設定されています。また、主人公キリヤも、闘う理由付けを女の子に求めたりはせず、むしろベトナム戦争時の兵士のような心持で軍隊に入隊している。最後に、少なからずお互いの間に愛情めいたものも生まれていますが、基本的には戦場での生き死にということ、またそのリアリティに関して作者は拘っているようだし(ギタイサーバによって一日がループしてしまうという設定など)、結構面白く読めました。ただ、繰り返される毎日が果たして主人公の妄想なのか、それとも実際にループしているのか、後半の仕掛けを見るまで混乱しました。最後に蛇足ですが、敵の設定は戦闘妖精雪風に似ているように思えました。世界観的に、雪風が侵略者と戦う「空」の上の話なら、All you need is killは「陸」の話という。だらだら読んで4時間程度。SF好きな方より、戦争モノが好きな方はちらりと読んでみてはどうでしょう。