夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

サマー/タイム/トラベラーでは「過去改変可」「悔恨欲」の括りに収まっていた小説だった。発表は1957年のSF雑誌というから、大分昔の本なのだなぁ。歴史感覚の希薄な最近の人間らしくwikiに頼ると作者ロバート・A・ハインライン

ロバート・アンソン・ハインライン(Robert Anson Heinlein、1907年7月7日 - 1988年5月8日)はアメリカのSF作家。アンソン・マクドナルド名義で執筆していた時期もある。

SF界を代表する作家のひとり。アイザック・アジモフアーサー・C・クラークと並んで、世界SF界のビッグスリーとも呼ばれている。ハインラインに影響を受けたSF作家も数多い。

超有名人なわけか。ちなみに1957年というと日本では三島由紀夫が「美徳のよろめき」を発表した年だったり。

簡単なあらすじ

1970年アメリカ、元退役軍人で技術者でもあったダン・ディヴィスは親友マイルズとともに主婦を家事から解放するという目的で設計したハイヤード・ガール(文化女中器)を、世に売り出す。事業は成功し、ダンはさらなる発明へと取り組むが、方向性の違いからマイルズに裏切られ、会社を離れるはめに陥る。失意の元、彼はミチュアル生命から売り出し中の新種サービス「冷凍睡眠保険」にサインしてしまうのだが・・。

偽史としてのアメリカ?

こういう未来像を描けた1950年代を羨ましく思います。というのも、この作品タイムトラベラー作品でもあると同時に戦後のアメリ偽史でもあるわけで(そりゃフィクションだしな)、当時のアメリカには、主婦を家事から解放する70年代が想像されるような希望的観測が溢れていたわけです。例えば、ダンは「六週間戦争」という架空の戦争中ダラスに出張しているんですが、その時に「サンディエゴ兵器廠」が「一瞬にして消し飛」び、「死の灰」がオクラハマに吹き流されて・・・という行は明らかに原爆が意識されていますよね。また、1940年代は「全体こそが未来の主人になるのだと主張していた時代」とされています。これは大戦後期からその後の冷戦構造までを一瞥しているとして良いのかなと。こういう背景がありつつも、この主人公は楽天的に未来に身を投げることが出来る。何せ、「オートメーションが浸透していない分野はどこか?」と考える余地があるんだもん。まだまだ資本主義は人間を息苦しくはしていなかったんですね。今そういう主人公は書きづらいだろうし、そういう意味で羨ましいと思いました。

感想

今読んでみると、タイムトラベラーものとして特に凝った設定があるわけでも無いし、2005年にいると、まだまだ科学はタイムトラベルを可能にしていない!とかつっこんでしまうわけですが、そこを差し引きしても普通に読み物として楽しい。文型にも優しく、読後感も悪くない。もちろん、想像された2000年代と、現実とのギャップについて考えてしまう事は間違いないんですが・・・。特に読む人は選ばないんではないかと。読書時間は4から5時間ですね。遅いです。それとサマー/タイム/トラベラーについての印象が激しく変わりましたこの本で。あと竹宮恵子という人が同名の漫画を描いているらしいのだけど、それもこんな話なのかな・・・?

参考リンク

wikipedia

wikipedia内、ハインラインについてのページ。
ハヤカワ文庫SFデータ
同ページ内、ハインラインの著書についての初出などの詳細データ。作品の発表時期、また媒体について参考にさせていただきました。

追記:「偽史」って表現間違えてるな。未来の事を書いてるのに偽史はヘンだ。