東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

知人に借りて読む。今さら感はあるけどまぁ一応。

あらすじ

 五月にある人は言った。それを眺めながら、淋しそうだと言った。ただポツンと昼を彩り、夜を照らし、その姿が淋しそうだと言った。
 ボクは、それを聞いて、だからこそ憧れるのだと思った。このからっぽの都ですっくりと背を伸ばし、凛と輝き続ける佇まいに強さと美しさを感じるのだと思った。流され、群れ、馴れ合い、裏切りながら騙しやり過ごしてゆくボクらは、その孤独である美しさに心引かれるのだと思う。 
 淋しさに耐えられず、回され続けるボクらは、それに憧れるのだと。
 そして、人々はその場所を目指した。生まれた場所に背を向けて、そうなれる何かを見つけるために東京へやって来る。
 この話は、かつて、それを目指すために上京し、弾き飛ばされ故郷に戻っていったボクの父親と、同じようにやって来て、帰る場所を失くしてしまったボクと、そして、一度もそんな幻想を抱いたこともなかったのに東京に連れて来られて、戻ることも、帰ることもできず、東京タワーの麓で眠りについた、ボクの母親のちいさな話です。(本文4ページより引用しました)

泣ける話っぽいです。もう泣かなければウソだろみたいな。事実うるっと来る本なわけですが本筋にいく前に、少し横道にそれてみたいと思います。何ていうかこれだけメディアで取り上げられると、もうちょっとした現象ですし。回りも「東京タワー」で凄い盛り上がってましたから色々調べてみたくなりました。長いけどお付き合い下さい。まずリリー・フランキー氏本人について。

リリー・フランキー(Lily Franky, 男性, 1963年11月4日-)はイラストレーター、エッセイスト。福岡県北九州市生まれ。本名・中川雅也(なかがわ まさや)。

正式なペンネームは“リリー・フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド”。名前の由来は、「ココリコミラクルタイプ」のオープニングでも使用されている「RELAX」を歌うアーティスト、Frankie Goes To Hollywoodから。“日本美女選別家協会”会長。過激な恋愛話が大好き。
リリー・フランキー - Wikipediaより引用

最近では雑誌en-taxi福田和也坪内祐三柳美里などと共同で立ち上げていたり、あとナンシー関とも共著がいくつかあります。多分、この本が出ていなければサブカルの人だったんだろうなぁ。
ネットでの「東京タワー」への言及
モテアイテムとしての「東京タワー」連鎖活用法-モテゼミ
「東京タワー」はモテアイテムとして使うんだ!と解説していたサイト。ここによると「東京タワー」の著書リリー・フランキー氏は女性にも大人気らしいです。リリー・フランキー氏がNHKトップランナーに出演した際の彼の様子について触れて

確かに昨晩のリリーフランキーを見ていると、動いてるリリーフランキーは初めて見たんだけど、「かわいい」というのはわかる気がする。僕の出会い系サイト師匠に似てるなと思った。天性のモノ持ってる感じ。「ありゃリアルで相当モテてるな」と心の中でつぶやいた。「ちょい悪」とは異なる母性くすぐり系&ちょっと照れ屋+突っ込み上手系で。

なるほど。そしてこの本の効用について

そういや「ヒルズで勤めてる」とか「こんな車持っている」に対しての「すごーい」って、往々にしてその人に対しての「すごーい」にすりかえられるじゃないですか。吊り橋理論っぽいけど。それと同様にリリーフランキーや東京タワーについて、普通の人が知らないような知識をちょろっと披露してあげればそれで「すごーい」はゲットできるんだろうね。

ベストセラーと著者、両方に人気があるときってこんな事もあるんかいねぇ。まぁその話にこぎつける自身が自分には無いけど。

声がリリーフランキーの友達の本上まなみだったなんてことを女子に話せばけっこう『ぷよぷよ』でいうモテが連鎖していくような感じになりそう。
 1モテ(東京タワーよかったよね)、2モテ(この前教育テレビにリリーフランキ出てたよ)、3モテ(お母さんの写真とか小さい頃の写真出てたよ)、4モテ(そういやアンパンマンみたいな「おでんくん」ってのやってるんだって、声はなんか友達の本上まなみなんだって)、5モテ(主人公はモチ巾着で、頭の中からモチがピュッと出るという)、6モテ(なんかエロいよね) みたいな、ね。エロトーク方面にも持ってける。

男性諸氏は精進すべし。ネットで見た「東京タワー」への言及では一番コレがおもしろかった。本の内容に全く触れずに何かを語れるって凄い才能です。モテアイテムとして1500円を投入してみるというのもアリですね。とりあえずモノとしての評価はここまでにしておきます。
感想
GQ JAPAN(ジーキュージャパン) 2016年 03 月号 [雑誌]
先月のGQに福田和也の解説とリリー氏のインタビューが載っていたので、読んでみた。福田和也によると、「東京タワー」は「男目線で書かれた超マザコン本」だという。

副題に「オカンとボクと、時々、オトン」とあるように、この小説には、小倉生まれの「ボク」と「オカン」の関わりが全編を通じて濃密に描かれています。その母子の触れ合いにこそが「泣き」のツボだ、と巷間言われているようです。しかしリリーさんは通りいっぺんの母子関係ではなく、「オカンが好きだ」とはっきり記すことで、普通の男性であれば隠そうとする自分のマザコン的な部分を臆面もなくさらけ出しています。(GQJapan3月号・39ページより引用)

確かにそう印象ではある。小説を読むだけならマーくんはオカンがいなければ全然別の人生を歩いたであろうと思うほど依存しきっている。その依存しきっていたという事を隠さないでがーっと書くのは普通の男性作家なら自意識が許さないだろう。そういうあけっぴろげな部分を魅力にしてしまえるのは、最近の作家にしては珍しい。次にリリー氏本人のウェブ情の日記を参照してみる。

ボクは文章を書く仕事をしていますが、この本を出すことは仕事という感覚はまるでなく、また、こんなものを読んで人がおもしろいと思うこともないだろうと感じながらも、オカンの供養のような気持ちで本を作っていたのです。
RRN「シナモン日記」リリー・フランキー

作品というより母に対する悼辞の意味をこめて書いたのだろう。福田氏は、作品としての強度を男目線に求めているのだけれど、ご本人の捉え方はそれとは少し異なるように思う。僕も作品を読んでいるときから、これは作品と言うよりはある人の半生を綴ったドキュメンタリーみたいなものだろうなぁと思っていた。小説的にはつたない部分も多いと思う。タイトルにそれほどの重みがあったのかなーとか、リリー氏の気持ちの運びが分かりづらかったりとか。純粋に作品としての水準では高いとはいえないと思います。

つまり作品として受け手がキャッチする類の本ではないんですね。なんせドキュメンタリーだしね。そりゃあ泣くさ。事実は強いですよ。もう泣いて泣いて、この感動を誰かに伝えなきゃと思うでしょうよ。

じゃあ即オススメか?いやそうではない。この本は、きっと本当に母親の存在が大事に思える時期にさしかかった人だけが読んで涙すれば良いんだと思う。そうでなきゃ、「泣いた」なんてただ泣きたいだけなんじゃあ、ないのかなぁ。ああ、サプリメントとしての物語効果はそういう意味ではあるかも。自分は、ノスタルジーへの退行はまだ早い、そう思いました。

追記:結局「ある人」って誰だったんだろう。あとエキサイトにトラックバックが打てない?