ヴィム・ヴェンダースの特別講演:「Sense of place」
5月1日にヴィム・ヴェンダース監督が池袋に来ることを知り、立教大学で開催された講演会に行ってきました。仲俣暁生氏の極西文学論―West way to the worldや蓮實重彦氏の映画はいかにして死ぬか―横断的映画史の試み 蓮實重彦ゼミナールで名前のみしか聞いておらず、監督自身の映画は一本も見ていないという不十分な準備でしたが、生のヴィム・ヴェンダースを見れて良かったです。
講演の内容について
冒頭監督のショートフィルム『10ミニッツ・オールダー(Ten Minutes Older)』が上映されました。薬物を誤って摂取してしまった男性が車で病院に行くまでの顛末をあっさりと描写した作品で、特に難解な内容だなと思ったわけではありませんが、「車」・「移動」というキーワードを出されるのでどうしても「極西文学論」を思い出してしまいました。
その後の2時間以上に及ぶ講演はヴィム・ヴェンダース監督の映画観を私たちに分かりやすく話していく、というものでした。タイトルは「Sense of place」、同時通訳の方は「土地の感覚」と訳していました。講演を聴いてからこっちにアップするまでに時間をおいてしまったので、少しうろ憶えですが簡単に箇条書きをまとめておきます。それと質疑応答の時間に差し掛かった辺りで帰ってしまったので少し最後はいい加減です。
講演の要点
- 映画が上手く行くとき、監督は『「物語」と「土地」が密接に関連する』という経験則を持っている。
- 最近成功している映画はどこで消費されても良いように、「物語」と「土地」が断絶している。
- 「パリ・テキサス」は半分しか脚本を書かなかった。残りは実際に自分がロケハンしながらその場で書いた。資金不足に陥ったために苦境に立たされた。しかし「土地」から得るインスピレーションが自分を突き動かした。
- 「パリ・テキサス」の主人公トラヴィスの名前の由来は英語のトラベルから。
- 映画は「物語」にコントロールされているだけではいけない。
- 「物語」から演繹された登場人物はつくりもののように感じる。
- ダシール・ハミットの小説「血の収穫」を映画化したかったがすぐには企画が通らなかった。
- 小説中で「ポイズンビル」(毒の街)と呼ばれた街が実際に小説のようだとは思わなかったが、舞台となったパースンビルを調べると、毒の街そのままだった(らしい。)
- アボリジニーを取材・調べたときに現地人「語られることがなくなった土地はやがて荒廃する。」という言葉が印象的だった。
印象
ざっと上に書いたくらいしか要点に覚えが無いのですが、まずは分かりやすく話そうと勤めていたのが良く分かりました。通訳の人が緊張していれば笑いをとって場を和ませたり、同じフレーズを繰り返し使うのは大学教授としての経験でしょうか。てっきりドイツ語での講演だと思っていたのですが、英語も堪能で驚きました。講演はスライドを使っていたのですが、ヴェンダース監督が撮った写真も写されました。
内容としては、「物語」に従うのではなく、「土地」に根ざしていることが必要というのは、グローバル化する映画産業に対するささやかな反論としてうなずけるところが多かったと思います。勿論、それを商業的にどうするのか?むしろ商業的な映画はいらないのか?という難しい疑問が残ったわけですが。
また、ヨーロッパという固有の空間を離れて「土地に根ざす」ことは出来るのか?という疑問も浮かびました。質疑応答で聞いてみたかったのですが大分時間オーバーしていたので帰宅しました。残念。
関連
ヴィム&ドナータ・ヴェンダース写真展〜尾道への旅〜
5月7日までらしいです。明日までか。