東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム(長いよ)

東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム (NHKブックス)

東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム (NHKブックス)

3月に出るらしい「ゲーム的リアリズムの誕生動物化するポストモダン2)」の前フリとして読んだ。余談になるけれども、これをジュンク堂池袋店で購入した時、最初は「文庫・新書」コーナーは3階なのでそこにいくと無い。何故だ在庫7冊と書いてあるではないかと思い店員さんに聞くと売り切れだという。「今日で一気にはけちゃいまして…」と申し訳なさそうに仰るので「まぁ仕方無い…」と思い、階を後にしようとすると「明日再入荷しますからっ!」と声をかけてくれた。そっか、じゃあまた明日かなと思い1階の新刊コーナーをつれづれ見てたら残り一冊があった、何なんだとそれだけナンデスガ。

全体としては東京という都市風景から見えてくる「格差・郊外・ナショナリズム」について東浩紀北田暁大の2人が検討するという趣旨の本。各章ごとのサブタイトルは以下のとおり。

  • まえがき―東浩紀
  • Ⅰ渋谷から都市を考える
  • 青葉台から郊外を考える
  • Ⅲ足立区から格差を考える
  • Ⅳ池袋から個性を考える
  • Ⅴ東京からネイションを考える
  • あとがき―北田暁大

タイトルとサブタイトルだけ見た時に、東京のエライ人が千葉と埼玉と茨城を見下すような話なのかなと思ったけどそうでもなかった。簡単に言うと、東京という都市が人間工学に基づいた巨大な郊外やテーマパーク的空間に支配されつつあるが、それにどう対応するか?という問題設定がなされている。まともな要約はきっと誰かがやってくれると期待しつつざっくりとメモすると気になったのは以下のような話。めんどいので今だけ敬称略でいきます。

  • 東浩紀が言う「ヴァーチャルな地元意識」について

→これについては「あるある」感が沸いた。同時に、「埼玉都民」という別称(または蔑称)を持つ僕のような人々には所与の感覚だなと思った。一日の生活時間のうち、Aという地域でほとんど過ごしているにも関わらず20km以上も離れたBという自宅に住むというライフサイクルを繰り返しているとこういう感覚に捕らわれやすい。例としては、地元より通勤または通学先の方が店の配置を良く覚えているなど。

  • 「第4空間」について

→これに限らず東浩紀は以前の宮台真司が提起した問題には結構拘りがあるみたい。

  • 「均質性のなかの差異」について

酒鬼薔薇事件当時、一部意見として存在した「均質性の高い郊外都市(土地のあり方を変える程に開発されたニュータウンなど)では画一的な意味空間だから、上のような犯罪が起きる」といった意見に対して北田暁大は「子供だったら基本的に、どんな均質空間でも裂け目を見いだしちゃうものでしょ」と言っている。でもその説明の仕方だとやはり均質空間って、裂け目を呼び出す欲望のトリガーになっているのではと思ったが。あとは裂け目をどう扱うかという違いでしかない。

ヒルズ族と呼ばれる人々は、必ずしもコンビニエンスな価値観に敵対しないのではないかという北田の問い。それに絡めて彼はピエール・ブルデューが想定した文化階層と足並みを揃えた資本移動が日本では動いていないと指摘する。コンビニ売りのサントリー伊右衛門好きな人がベンツSクラスを新車で買っているイメージ?

  • グローバルな消費社会の論理によって構成されるエスニック・タウン。

→物理的なエスニック・タウンがオリンピックに合わせて解体されていく一方で、資本のフローが形作る「韓流」タウンが北京に出来ている。中国を訪問した時に北田が街に対して持った印象。多分、上の文化階層と資本移動がはっきりと目に見えないという問題意識に繋がっていると思う。あー中国は確かに面白い。

  • 下北沢の再開発問題について

→東は再開発そのものについて立場を保留しつつメディアに流通する「サブカルの街シモキタ」の側面が強調されている事について、違和感があるという。北田は住民側と来訪者の共同幻想的な側面を認めつつ、下北沢のような風景を面白いと思える感覚が行き場を失いつつあることに危機感があるという(念のためですが、下北沢の再開発反対運動がエゴによって駆動されているとは東さんも北田さんも言っていない)。外から見ると、地方の環境問題がそのままひっくりかえって都会で展開しているように思える。来訪者は風景保全に積極的。それに対して住民は消極的にではあるが開発を容認する人も一定数いるという。

→北田のあとがきより。技術の成果とそこから予想されうる現実は別ではないかという話。「人間工学は思考の外にあるから脱構築出来ないが、人間工学から類推される思想は脱構築出来るのではないか」みたいな話ですね。

長い。いつものエントリーの倍は打ってる。

感想。ざーっと読むと都市論にはなってないなあと言うのが1つ。東京は東京だけで成り立っているわけではなく隣県との重力場の上に成り立っている側面がある。にも関わらず割合人口の流動など退屈だが重要なテーマには話が移らなかったという点では後ろ向きの予想が当たってるぜ!県民を馬鹿にしないでよ!感想その2。「東京が多様性の肯定を徹底しつつあるなかで、可視的テーマパーク(ここでは遊園地のようなモデルではなくて、アキバや下北沢などが共同幻想から成り立っている都市や街としてテーマパークとされる)や不可視な外国人コミュニティ、そしてそれを虫食い状にファスト風土が侵食しつつある」という見取り図は実感としても分かるし、面白い。多分ギート・ステイトと繋がるんではないかなと。その3。ラスト付近で東さんとしては珍しく思い切った話をしていた。

続く。