血の収穫 (創元推理文庫 130-1)

血の収穫 (創元推理文庫 130-1)

ヘビーノベルは久々だったので超遅読だった。今月はこの本とあとマンガ読んで潰れた。さらば6月。

えー僕としてこの本に対しては二つのアプローチをしようと思っていて、一つは単純にヴィム・ベンダースを生で見た時に褒めていた本であった、ということと、彼がその時行った講演で「語られない土地はやがて死に至る」(大意)という言葉に感銘を受けたからである。

二つ目はいくらかオタ寄りな理由だが、ミステリーとりわけハメット、チャンドラー、カポーティなどの米国産のそれと村上春樹の対比、さらに欲を言えばラノベが村上から得た果実、といった目線から捉えるためだった。とりあえず、海外で戦前から戦後に量産されたミステリー群があり、そこから村上が何を得たのか、さらにオタ系文化はアメリカとどういった関連を持っているのか、はたまた関連などないのか?という点と点を線で結ぼうという事を何となくイメージした。

まずは、以前ベンダースが撮った「ハメット」という映画で予習していたので、何となく頭にあの映画を再生しつつ読んだ。なかなか面白かったと思う。何でこの時代の邦訳ってべらんめぇ調が多いのかなぁという疑問はありつつ、可能な限り余計な修飾を削った地の文と、テンポの良い会話とかが魅力だった。

ベンダース目線で語るならば、血で血を洗う街の毒がいつしか外部の人間すらも蝕んでいく様を、完結な言葉で表したところにハメットの真骨頂があるとか言えそうだ。

より雑に言ってしまえば、本来「客観」の管理者である主人公を殺人を犯すか犯していないかというところまで追い詰めたところがこの小説の最もリリカルなところで、そのためにあの簡潔な文章とあのくどくどとした会話が積まれているのだから、そこが読めないならあんまり面白くはない。ことに序盤は疲れる。

あと多少余談。

ちょいと個人的にブラックラグーンに違和感があったんですよ(とても面白いにも関わらず)。何でかなと思っていたんですけどこのようにハードボイルドを二系統の流れで考えると、「卑しい街のタフガイ主義」(ハメット)の話であるにも関わらず、主人公のロックは「卑しい街のダンディズム」(チャンドラー)を体現しようとしている。

この二つは本来水と油のはずなのにどうして混ざり合っているのかしらと思ったが、何て事はない、ジャンクなんだね。つまり「ええとこ取り」(良い所取り)。歴史とか系譜とか関係なく、面白いところだけをとってきて混ぜ合わせている。普通に考えればそうだね。だからオタク漫画扱いだったんだね。

戦う女と悩むだけで何もしない男という、典型的な戦闘美少女物だからそうだったのだと信じていたんだけど、ただ色々なところの面白いものを寄せ集めたジャンクとしての文化であるのがオタク文化だからそっちからの意味だったのか。

http://d.hatena.ne.jp/kimagure/20061110

みたいな話とかも前ひっかかっていて、ハメットが気になったというのもある。まぁ上の引用を敷衍するなら街=土地と考えるとハメットはどこまでいっても人間はクズ(最近はこのフレーズ好き)で、でもここに留まらざるを得ないからタフガイになるしかないという断念何だか決断なんだかしんないけど割り切りがあるような。

比較してカポーティまで行くと、人間はどこまでも遠くにいけるが結局そこまで自由にはなれないね、みたいなあきらめが漂ってる。冷血を読んだからそれしか考えられないのだが、僕が考えているのは単純に物理的な移動のレベルでそうだよねという話です。

さてさてオタ方面での収穫だが、あんまり無かった。強いて言えば決して名前が出ないところがエロゲの主人公だろ、とか思ったけど実際のエロゲの主人公イメージをこの作品の「おれ」と比較するようにアジャスト出来ないので、終了しよう。

眠い。今はユヤタンを読んでいます。