Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 (岩波新書)

Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 (岩波新書)

http://d.hatena.ne.jp/smasuda/20050515
こちらの過去ログを読んでいたら出てきた。

手放しでお勧めできる優れた概説書である。「J」概念の誕生と定着の過程から、音楽メディアのデジタル化、タイアップ・システム、カラオケに着メロ、地方都市のパルコ化など、しばしば錯綜し多様な文脈によって領有される(すなわち、「オレにとってJポップというのは…」という単層の文脈しか見ない言説が溢れている)この対象を俯瞰するために必要な関連事象をほぼ網羅し、産業として肥大化した90年代の日本の主流ポップ音楽の状況を過不足なく描いている。

と、id:smasuda氏も紹介するように、本書は「オレにとってのJポップ」、ではなく技術論から、プロモート手法から、また受けてからの分析というドラスティックなまでに数字と事実に拘りながら、「Jポップ」の具体像に光を当てている。最近読んだ新書の中では一番実用性が高く、また資料性も高い本となっていてつくりも丁寧。音楽に興味がある人、最近の音楽状況が気になる人は、見て損は無い。そう言えば最近こういう話もあったけど↓

WinnyはCDの売り上げに関係なし」慶應大学経済学部の田中助教授」
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2005/03/08/6754.html

この本が示す通りオーディオレコードの売り上げピークは98年であり、それ以降ずっと減少傾向にある、という。全く影響が無いわけでは無いのかも、だけど。それと、「やっぱり商業主義はアーティストをダメにする」、という物言いを筆者が回避しているのにもその実証主義的態度が貫かれている。自分のみたところ、音楽をダメにしているのは、実利追求する態度じゃなくて、音楽業界を巡るお金の循環なんだろうなぁ・・と思った。さらに言うとすれば、これは新聞業界などにも言える事なのだろうけど、日本の「マス=中流」という感覚が戦後異様に肥大化したために、メディア業界全体が国内市場だけで食えてきてしまったという点が、やはり一番今指摘されるべきなんだろうな。例えば今、日本で一番売り上げのある読売新聞が1000万部を売りあげているのに、アメリカで一番売るUSAトゥディが5分の1弱の170万部だし、本書にあるとおり、音楽市場における日本の売り上げは世界第2位という事実がある。しかも、日本は音楽も新聞も殆ど、国内でのみ消費されている。これからはメディア業界もグローバルに!とかはいきなり思わないけれど、国内で、日本語だけで売る、という姿勢はもうダメなのかもね。車業界だって、ブランド、車種はともかく、総体として日本を軸足にしてる企業なんてあんまり無いし。というわけで(強引にまとめ)、産業構造の理解として、音楽のありようとして、メディア史として、実においしい本なので、音楽業界に行こうとしてる人なんか特にオススメだし、そうじゃない人にも是非是非読んでいただきたいわけです。でもこれ読んで、「やっぱり」Jポップダメじゃんという感想に落ち着くのは脊髄反射だし、建設的態度じゃあない。
電車の行き帰り+2時間くらいでさくっといけます。