宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

あらすじ
2034年、地球の夜空から星々が消えた。正体不明の暗黒の球体が太陽系を包み込んだのだ。世界を恐慌が襲った。この地球について様々な仮説が乱れ飛ぶが、決着のつかないまま、33年が過ぎた・・・。ある日、元警察官ニックは病院から消えた若い女性の捜索以来を受ける。だがそれが、人類を震撼させる量子論的真実につながろうとは!ナノテクと量子論が織りなす、戦慄のハードSF(裏表紙から引用)。

さて。

例として、ある状態に準備された銀イオンを、磁場を通過させて傾向版にぶつけるとしましょう。量子力学は、半分の回では銀イオンが上むきに曲がったような閃光が蛍光板上に観測され、もう半分では下向きに曲がったような閃光が観測される、と予言するわ。これは、イオンが固有角運動量をもっていて、磁場と相互作用するためだと説明できる。イオンのスピンが場に対してむいている方向によって、上か下かに押されるわけ。(P.167〜168)

こんな会話が延々と続くとしたら果たして小説を楽しむ前に投げ出してしまわないだろうか?そう思う文系読者はグレッグ・イーガンを読むべきかも・・・とか全然SF知らない僕が言うのもナンデスガ、グレッグ・イーガンは凄いです。これは読まないのは損です。というわけで、自分がイーガンを読む時のポイントなどをまとめてみました。今回は前置きが長いな。

イーガンへの私的アプローチ

  1. SF内のギミックは雰囲気を楽しむアイテム。頭で考えないで目で楽しむ。
  2. 文系が得意なのは人間の心のはこび(私見)。2000年代中期の人間の脳内を覗くようによむとまぁ楽しい。
  3. 文字からの映像喚起をひたすら繰り返す。するとイーガンが楽しめる。


てな感じです。蛇足。でもね、イーガンを読まないのは損だと思ったので。


感想
イーガンを読んだのは初めてでしたが、これはやみつきになりそうです。異様に緻密なデバイスや「モッド」に関する描写、近未来人の行動心理はさぞやと思わせるような、「新しい」葛藤、そして世界のあり方・・これはホラだよと笑えても、その圧倒的な筆力にもう頭があがりません。ストーリーが破綻し、伏線回収はされず、肝心な事は何一つ終わらないのですが、まぁそれらも読み終わった後では、全てが瑣末に思えてしまうのではないでしょうか。前半は若干ハードボイルドな雰囲気で話が進みます。しかし、それ以降はもうとんでもない壊れ方。一度や二度じゃなくて作者においていかれました。で、読んでいくうちにどんどん足元が揺らいでくる。この感覚・・・・なんていったら良いのでしょうかね。安心して読める作品では決して無いけど、たまにはこういう読書が必要なんですよ。もちろん、安心して読める作品は凄く大事ですけど。

余談
上の私的アプローチですけど、あれは理系バリバリな文章に出会ったときの自分の対処療法です。つーか、その理系的な文章がつまらなければ読むのやめてしまえば良いんだよね。だから面白いけど、中々読み進められない時に、ということで。あと大森望さんが「ディアスポラ」の後書きで、「万物理論」と「宇宙消失」はまだ文系SFと書いていたんで、文系的にはディアスポラはスルーの方がよさげ・・・?