その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権

その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権

要約

社会に溢れる音楽は、それがいかにありふれた、何とでも取り替え可能なものであったとしても、「誰か」の能動的行為の所産であることには変わりない。その誰かの労働/仕事/作品はまた、その対価をも要求することにもなるだろう。「これは私の《作った》音楽だ」という声が、至る所から聞こえてくる。経済とロマン主義が音楽の上で交錯する。
では「その音楽」は誰のものか? あるいはそもそも「その音楽」とは何を指すのか? 茫漠とした問いではあるが、それを伝統的な美学の用語によって定式化するならば「音楽における〈作品〉あるいは〈作者〉とは何か? そして両者の関係とは何か?」という本書の問いとなる。
本書では、クラブ・ミュージックの技術的基盤、音楽産業の構造変容、著作権の思想史を通じて、現代ポピュラー音楽の「作者性」の布置状況を明らかにした。ポストモダニストが声高に叫ぶ「作者の死」というスローガンを疑い、現実の「拡散する作者」の在り様へと肉薄する思考を提示する。 (Amazon.co.jp:その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権: 本より引用。)

よくわからないかんそう
読んだのも大分前、しかも現在手元に本そのものが無い状態なので、何だかうろ覚えになってます。

ざーっと読んだ印象を拾っていくと、まず<作者>という概念が現代のポップカルチャーという領域ではあまりに拡散しているにも関わらず、私達(または僕)は、そこに過剰なまでに<作者>性というものを読み込みがちであるということが良く分かりました…とここまで読んでもハァ?なので、少し例え話を持ち出して書いてみるとするならばこういうことです。

例えば、僕があるバンド「a」の曲「A」を聴いていたとします。その「A」には曲内において歌詞を歌うボーカルがいて、ドラム担当がいて、ベースがいて、ギターがいて…と聴いた範囲では考えます。どうやらライナーノーツによれば歌詞を書いたのはボーカルのようです。全体の曲構成はベースがまとめたようです。普通このあたりで、「A」という曲はバンド「a」が作り出したオリジナル作品であると考えてよさそうです。

ところが実際には曲「A」は、あるバンド「b」をプロデュースした人間によって大幅に作風が変更されていました。以前のバンド「a」は、どちらかといえばファンクよりヘヴィメタル風だったのですが、今回はどうやらそのプロデューサーが「今回はファンクでいく!」と決めたのでした。その結果、今回の曲「A」はファンク風なものに仕上がりました。

でも、結局のところここまで来てもバンド「a」が曲「A」を制作した、という事実に変わりはなさそうですよね。それに対して、「いや、それはどうだろうね」と疑問を呈しつつ、色々な視点から「作者」であるバンド「a」がどこにいるのかを検討したのが、本書なのではないか…と思います多分。

多分、これってオリジナリティ信仰が強い人(まぁ言い方は良くないけど、オレンジレンジを力いっぱい批判しているような人ね…)には耳の痛い話なのではないかなぁ。「あのバンドはマジ神ですよ!」(著者言うところのロッキンオン的言説)という見方に対して、冷や水をぶっ掛けるようなものですからね。色々な人に読んで欲しいと思いつつ、そういう幸せな音楽享受の方法がご破算になったら、その後どうすりゃいいんだよとは思う。何かそれで幸せな人がいるならそれで結構っていう気も、する。かなり。ほっといてあげりゃいいんじゃないのかな。僕自身も割と「私と対面する作者」性(裏方的プロデューサーでは無く、歌詞を歌う本人やその周辺の人々)に対して肩入れする性分なので、「だから、何?」という感想を抱くことしばしばでありました。ホント、どうしようね。とりあえずライナーノーツを細かくチェックするとかそこから始めなきゃいかんのか。まぁ皮膚感覚としてすんなり受け入れられるあたり、我ながら性格が悪いと思ったりもした。

とはいえ、クラブミュージックの歴史から著作権の成り立ち、現代のポップミュージックの製作過程まで、別に社会学に興味が無い人でもポップミュージックやその業界に興味がある人にはピンとくるネタが満載されているので、その点では全然問題無いと思います。書き方も丁寧で分かりやすい。広くサブカルチャー分析に興味がある人全般にお勧め出来る本であります。

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著者である増田聡さんのブログです。

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増田聡さんのインタビューです。これもかなり面白い。