カッティング ~Case of Tomoe~ (HJ文庫)

カッティング ~Case of Tomoe~ (HJ文庫)

村上春樹の類似性を指摘する人はメタハルキ。メタハルキは村上春樹の小説がオタク達に与えた影響らしいという情報をどこからか仕入れているのでやれやれとか言うヤツは即座に「ハルキ!」という初等呪文を唱え出す。ところが具体的にハルキとどこが似ているのかはあまり指摘出来ない発展途上の可愛いヤツ。はぐれメタハルキ族は村上春樹作品の主人公がモテモテなのに嫉妬している空想と現実の境界が曖昧なモンスター。モテ主人公を憎む余り春樹作品を読み漁りその度に「モテ!」という中等呪文を唱える。キングハルキはエンカウント率が低いが、かなり危険なモンスター。村上春樹への憎悪を募らせたまま進化した凶暴なヤツ。使える魔法は「ハルキユング!」で、集合的無意識と元型という魔物を召喚することが可能。ウィスキーをかけるとしおれるというウィークポイントを持つ。

さて、あとがき読んでSFが…みたいな話があったけどその当たりは全然分からないので文章についてしか書く事ないですが今回は完全にハルキ化してると思いました。「やれやれ」で即座に「ハルキ!」を唱えても仕方無いのですが、ヒロインとホテルに行く下りでの

どこにも行く当てのない学生が一晩を過ごすとしたら、たいていネットカフェかラブホになる。それは大宇宙の法則みたいなものだった。

とか

バスルームは広く、その壁の一方はどういうわけか鏡張りだった。このホテルにはやたらと鏡が使われている。もしかしたらこういったホテル全般がそうなのかもしれない。だとしたら鏡業者とホテル業者というのは、きっととても友好的に違いない。

みたく、端的な事実の後に続くちょっと大げさな冗談をつけくわえるというスタイルは、あからさま過ぎて気になりました。

それと、月を見上げる二人が実はここは井戸の底みたいなだね、という話もモチーフとしては大ネタ過ぎて消化不良かなと。具体的にはねじまき鳥クロニクルに出てくる軍人のおじいちゃんが井戸に入っていたという話と、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドに出てくる主人公がマンホールに入るというエピソードを言えば足りると思うのですが、村上春樹作品において反復される「井戸」というキーワードをそのまま引っ張ってきているように思えました。

以上の事が気になってまともに読めませんでした。ラノベにリライトして女性が消えない村上作品を読んでるような感じでした。一巻が比較的好きだったのでやや残念です。おしまい。